すげえぞ、ハリウッド

 世界は暴力と憎しみ、差別と偏見、無理解と無関心に溢れている。それでも、ひとつでも多くの事を知り、学び、理解しようとする努力を続けるのならば、ひとつでも行動に移してみるのならば、世界は少しずつでも変わっていくのではないだろうか。おいらは、諦めてしまうのではなく、たたかい続ける人間でありたい。そうした生き方を常に選んでいける人間でありたい。


 最近、素晴らしい映画が連続して公開されている。みなさんにも是非観て欲しい三作品を紹介する。


ポール・ハギス監督の「クラッシュ」(http://www.crash-movie.jp/

テリー・ジョージ監督の「ホテル・ルワンダ」(http://www.hotelrwanda.jp/index.html

スティーブン・スピルバーグ監督の「ミュンヘン」(http://www.munich.jp/



 「クラッシュ」は人種のるつぼL.Aを舞台にした、36時間のストーリー。十数人のそれぞれの生活が緻密な脚本のもとに交差していく(ため息が出る程に見事!)。登場人物のそれぞれは悩みや問題を抱えながらも愛する家族や仲間と暮らしている。彼らは様々な人種であり、階層であり、時に憎しみ、恨み、対立しあう対象となる。この映画は、アメリカがいまだ抱える人種差別の根っこに何があるのかを、じわりとにじみ出る様に描く。監督のポール・ハギスは「ミリオンダラー・ベイビー」で脚本を務めた人で今作が監督一作目ということであるが、素晴らしい映画監督がまたひとりハリウッドに誕生した。「ミリオンダラー・ベイビー」は観たあと、ずしんと重くなってしまったが、今作はシビアな現実を描きながらも暖かな気持ちになれる。重いテーマをシリアスに描きながらも、奇跡の様な救いをちりばめているからだ。個人的には昨年から今年にかけて観た映画で最もお気に入りとなった作品である。



 「ホテル・ルワンダ」は100日間で100万人が虐殺されたルワンダの悲劇に巻き込まれた、一人のホテル支配人の行動を描いている。おいらは恥ずかしながらこのルワンダでの悲劇を全くと言っていいほど知らなかった(政治的背景などはHPでも見られるのでそちらを参照してほしい)。実はこの映画、町山智造さんがちょうど一年前のアカデミーの時にブログ上で一押ししており、その後、署名活動にまで発展して日本での上映にたどりついた経緯がある。
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20050226
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20050616
 この映画で印象的なのは、虐殺の現場を押さえたカメラマンとのやりとり。主人公は“これが世界で流されれば世界が救いに来るよな?”と聞くが、“映像を観て、怖いねと言って食事を続けるさ”という、日本人が観たらあまりに思い当たる節がありすぎて下を向いてしまう様なセリフが飛び出てくる。エンディングで、ワイクリフ・ジョンの歌が流れる。「なんだってアフリカはいつまでも合衆国にはなれないんだ?」石油の出ない土地の大量虐殺は毎晩のトップニュースになることはない。



 「ミュンヘン」、スピルバーグの最高傑作である。平和の祭典、オリンピックがテロに見舞われる。パレスティナ・ゲリラがイスラエル選手11人を人質にとって政治犯の釈放を求める。世界中のマスコミが報道するなか、ドイツ警察の対応の不手際もあり人質の全員が殺される。イスラエル特殊工作員を組織しパレスティナの要人11人の暗殺を命じる。工作員のリーダー、エヴナー(エリック・バナ)が主人公。
 スピルバーグならではのマニアックでリアルな描写が長い映画を飽きさせず、緊張感を持ったものにしている。例えば、テロ現場を背にカメラに向かったレポーターが喋っているシーン。レポーターの背後遠くで大きな爆発が起きる、少しの時間を置いてドン!という爆発音が届き驚いたレポーターが振り返る。例えば頬を貫通した弾丸が肩にめり込んだイスラエル選手、その場では頬に黒い点があり放心している状態であるが、数秒後のカットでは口から下が血だらけになって意識朦朧としている。「プライベート・ライアン」でとことんリアルな人体破壊の映像にこだわったスピルバーグが、この映画でも悪趣味なほどにそうしたシーンを羅列する。
 しかし、この作品が含むメッセージは鋭く、率直だ。「これは戦争だ」と報復を正当化する主人公たちは、一体自分たちのやっていることは彼らのテロとどこが違うのか、という根本矛盾にぶつかっていく。「テロは犯罪として対処すべきだったのではないか?」というニューヨークでのやりとり。背景にそびえる二本のWTCビル。「シンドラーのリスト」を撮ったユダヤ人監督は、今作でイスラエルパレスティナ問題を客観的に描くだけでなく、ブッシュ政権の対外政策への痛烈な批判を行った。



 まったくハリウッドというのはすごい。すごさを増している。いよいよ「シリアナ」も公開される。おいらたちはスクリーンを通して世界を知ることが出来る。