村上春樹

天木直人・マスメディアの裏を読むで紹介されていた。

3月27日 05年49号から

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◇◆ 温かみを醸し出す小説 ◆◇

 3月27日付の読売新聞に、小説家村上春樹の次のような言葉が載っていた。一切のコメントをすることなくここに紹介したい。皆さんはどういう感想をお持ちになって読まれることだろうか。

「ずいぶん昔のことになるけれど、20代の初め、結婚したばかりの頃、本当にお金がなくて、一台のストーブを買うことも出来なかった。その冬はすきま風の吹き込む、東京近郊のとても寒い一軒家に住んでいた。朝になったら、台所に氷がバリバリ張りまくっているような家だった。僕らは猫を二匹飼っていたので、眠るときは人間と猫と、みんなでしっかりと抱き合って暖をとった。当時なぜかうちは、近所の猫たちのコミュニティセンターみたいなものになっていて、いつも不特定多数の猫がごろごろいたから、そういう連中も抱きこんで、人間二人と、猫四、五匹で絡み合うようにして寝ることもあった。生きていくにはきつい日々だったけれど、その時に人間と猫たちが懸命に醸し出した独特の温かみは、今でもよく思い出せる。そういう小説を書くことができたらな、と僕は時々考える。真っ暗で、外では木枯らしが鋭いうなり声をあげている夜に、体温を分かち合うような小説。どこまでが人間で、どこまでが動物かわからなくなってしまうような小説。どこまでが自分の温かみで、どこからがほかの誰かの温かみなのか、区別できなくなってしまうような小説。どこまでが自分の夢で、どこからがほかの誰かの夢なのか、境目が失われてしまうような小説。そういう小説が、僕にとっての『良き小説』の絶対的な基準になっているような気がする。それ以外の基準は、ぼくにとっては特に意味を持たない・・・」

大好きな作家が、こうした思いで小説を書いているという事を知れて、本当に嬉しい。
おいらは何人かの作家については、「まだかな、まだかな」と心から新作を楽しみにしている。僕は小説については新刊の情報収集をほとんどしない(音楽についてはするのに)。その代わり、ちょくちょく本屋へでかけて新刊のコーナーを見て歩く。そして、好きな作家の新刊を見つけ、「お〜新しいの出てるじゃん。げ、1800円か、お金足りないな。明日には買おう」とか一人で嬉しい悲鳴をあげる。
おいらにとって、村上春樹氏の書く物語は、とてもとても読みやすいのだが、決して解りやすい物語ではない。奥があまりにも深く、読んでも読んでも、村上氏の思いや気持ちにたどり着けていない気がして、それがまた、村上氏への愛情となっていく。部屋の本棚を整理しているうちに読み出して止まらなくなってしまう作家ナンバーワンである。
「真っ暗で、外では木枯らしが鋭いうなり声をあげている夜に、体温を分かち合うような小説」。おいらは、高校生の頃から幾度となく、そうしたものを確かに村上春樹氏の小説から貰ってきた。おいらは、ほんの一瞬でも誰かにそうしたものを与えることが出来ているだろうか。それはきっと、そんなに難しいことではないはずだけど。