9月が過ぎたら起こして

先日行われた第48回グラミー賞で、グリーンデイが最優秀レコード賞を獲得した。賞を獲得した楽曲「ブールヴァード・オブ・ブロークン・ドリームス」は2004年に発売されたアルバム、「アメリカン・イディオット」に収録されている。このアルバムは昨年の第47回グラミー賞を総なめにした祈念碑的作品だ。未聴の方は今からでも是非聴いて欲しい。このアルバムに収められている「ウェイクミーアップ・ホウェン・セプテンバーエンズ」も含めてビデオクリップが下記のサイトから観ることができる。このサイトにはメンバーへのインタビューも掲載されていて、このアルバムが彼らにとってどういった位置付けを持つ作品なのかが伝わってくる。

http://www.wmg.jp/greenday/
http://www.wmg.jp/greenday/index02.html


グリーンデイといえば、オアシスとほぼ同時期に出てきたバンドだが、おいらにはやがて消える一発屋のパンクバンドとの印象が強かった。「メロコア」などともてはやされたりもしたが、友人が「あんなもんコアでもなんでもねえ」と吐き捨てていた事が印象に残っている。今ではツアーを行えばスタジアムを満杯にするワールドクラスのアメリカを代表するバンドにまで成長した。当時、彼らが10年後にこれだけの成長と成功を収める事を予想した人はいないだろう。

「ウェイクミーアップ・ホウェン・セプテンバーエンズ」のPVは二人の男女が草原の中で抱き合い、愛を語らうシーンから始まる。なかなか演奏は始まらず二人のやりとりが続く。彼は、人生とは短く一瞬で夢や希望が変わってしまうかもしれず、今を永遠にしたいと彼女に訴える。彼女は優しい笑顔で彼にささやく。「何があっても私たちは一緒。誰にも変えられない。ずっと一緒よ。離れない」。ゆっくりと演奏が流れ出す。美しいアコギのアルペジオにのせてビリーのヴォーカルが歌い始める。若い二人がお互いを敬い、慈しみ、生きる喜びに溢れる生活が描かれていく。二人の時間の積み重ねとともに曲も高揚してくるが突然演奏が途切れる。テラスにいる彼のもとへ、部屋から飛び出してきた彼女が叫ぶ。「違うと言って!なぜ相談もせずそんなことをするの!?どうしてよ?」と。あれほど幸せそうだった二人に何が起こったのか。彼女は泣き崩れる。「ああ神様、どうしよう。どうしたらいいの」。彼は「君だけには理解して欲しかった。僕たちのためなんだ。誇りに思って欲しかった」と叫ぶ。彼は彼女に言い出せないままにイラク派兵に志願したのだ。また演奏が始まる。バリカンで色とりどりの髪の毛を刈られていく青年達。耳元で上官に罵声を浴びせられる。やがて場面は戦闘只中のイラクへ。破壊されつくした町の中で、子どもたちに銃を向ける米兵。閃光が走り、爆風にもまれ若い兵士達が次々と倒れていく。その中で恐怖と狂気に縁取られた彼の瞳が映される。

夏は来て そして過ぎ去る
イノセントが永遠でないように
9月が終わったら 俺を起こして
俺の親父に去る日が来たように
あれから7年あっという間に過ぎた
9月が終わったら 俺を起こして


ほらまた雨が降ってきた
星からこぼれ落ちてきた
俺の痛みはびしょぬれで
そしてようやく自分になれる
思い出が眠る間
でもそこで何を失ったのか 忘れることは絶対にないから

このPVの監督はサミュエル・ベイヤー。ニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーンズ・スピリット」などを撮った人で、「アメリカン・イディオット」からシングルカットされたPVすべてを監督し、MTVビデオ・ミュージック・アワードで8部門中、7部門を受賞した。おいらはまだ未見だがグリーンデイのライブDVDも監督している。


出演している2人の演技も秀逸で男優は「リトル・ダンサー」のジェイミー・ベル。あのあどけなかった少年が、逞しくも脆い青年を見事に演じている。まるで一本の映画を観ている様だ。この曲はビリーが亡き父のために唄った歌であるが、ここで唄われる“9月”は我々に911を想起させる。アメリカに暮らす人々は、どうやって9月を終わらせるのか、その事に向きあわざるをえない。彼らの家族が、恋人が、イラクの市民を殺し、自らの命と尊厳を失い続けているからだ。「アメリカン・イディオット」の一曲目はアルバムタイトルにもなった楽曲で、このアルバムを象徴している。

アメリカのアホにはなりたくない
新種の狂気に支配された国なんて欲しくない
あのヒステリックな音が聞こえるか?
アメリカを犯したあの下心

911以降のアフガン〜イラクを通じて、反ブッシュの活動を開始したミュージシャンは数多くいたが、作品の完成度や圧倒的多くのティーンエイジャーへの影響力という意味では、グリーンデイこそが最功労者だと思う。このアルバムは全曲を通じてアメリカに生まれた一人の青年の物語になる様なつくりになっていて、メッセージ性も強い。病んだ国に生まれた一人の青年の生きる闘いを克明に描いている。暗く、虚像に溢れ、絶望的な世界の中で必死に生きる若者の叫びを、飾り立てもせず、楽観もせず、ただただリアルに爆音にのせて唄う。グリーンデイは、現在のアメリカを象徴する希望のひとつだ。マイケル・ムーアショーン・ペンパティ・スミスブルース・スプリングスティーンらの行動はブッシュ陣営を確実に追いつめている。帝国の崩壊は既に始まっている。