昨夜の続き

 昨夜、オススメの映画を上げたら、ちょうど町山さんのブログが素晴らしい文章をあげていたのでそちらの方を是非。くり返し2回も読んでしまった。

http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20060304

この日記は数日前の一件(http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20060225)への町山さんからの回答。誠実すぎる、真摯な回答。敬意を表します。

私たちは画一を求めるのではなく真実を求め、違いを理解し相互理解をすすめる。

すげえぞ、ハリウッド

 世界は暴力と憎しみ、差別と偏見、無理解と無関心に溢れている。それでも、ひとつでも多くの事を知り、学び、理解しようとする努力を続けるのならば、ひとつでも行動に移してみるのならば、世界は少しずつでも変わっていくのではないだろうか。おいらは、諦めてしまうのではなく、たたかい続ける人間でありたい。そうした生き方を常に選んでいける人間でありたい。


 最近、素晴らしい映画が連続して公開されている。みなさんにも是非観て欲しい三作品を紹介する。


ポール・ハギス監督の「クラッシュ」(http://www.crash-movie.jp/

テリー・ジョージ監督の「ホテル・ルワンダ」(http://www.hotelrwanda.jp/index.html

スティーブン・スピルバーグ監督の「ミュンヘン」(http://www.munich.jp/



 「クラッシュ」は人種のるつぼL.Aを舞台にした、36時間のストーリー。十数人のそれぞれの生活が緻密な脚本のもとに交差していく(ため息が出る程に見事!)。登場人物のそれぞれは悩みや問題を抱えながらも愛する家族や仲間と暮らしている。彼らは様々な人種であり、階層であり、時に憎しみ、恨み、対立しあう対象となる。この映画は、アメリカがいまだ抱える人種差別の根っこに何があるのかを、じわりとにじみ出る様に描く。監督のポール・ハギスは「ミリオンダラー・ベイビー」で脚本を務めた人で今作が監督一作目ということであるが、素晴らしい映画監督がまたひとりハリウッドに誕生した。「ミリオンダラー・ベイビー」は観たあと、ずしんと重くなってしまったが、今作はシビアな現実を描きながらも暖かな気持ちになれる。重いテーマをシリアスに描きながらも、奇跡の様な救いをちりばめているからだ。個人的には昨年から今年にかけて観た映画で最もお気に入りとなった作品である。



 「ホテル・ルワンダ」は100日間で100万人が虐殺されたルワンダの悲劇に巻き込まれた、一人のホテル支配人の行動を描いている。おいらは恥ずかしながらこのルワンダでの悲劇を全くと言っていいほど知らなかった(政治的背景などはHPでも見られるのでそちらを参照してほしい)。実はこの映画、町山智造さんがちょうど一年前のアカデミーの時にブログ上で一押ししており、その後、署名活動にまで発展して日本での上映にたどりついた経緯がある。
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20050226
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20050616
 この映画で印象的なのは、虐殺の現場を押さえたカメラマンとのやりとり。主人公は“これが世界で流されれば世界が救いに来るよな?”と聞くが、“映像を観て、怖いねと言って食事を続けるさ”という、日本人が観たらあまりに思い当たる節がありすぎて下を向いてしまう様なセリフが飛び出てくる。エンディングで、ワイクリフ・ジョンの歌が流れる。「なんだってアフリカはいつまでも合衆国にはなれないんだ?」石油の出ない土地の大量虐殺は毎晩のトップニュースになることはない。



 「ミュンヘン」、スピルバーグの最高傑作である。平和の祭典、オリンピックがテロに見舞われる。パレスティナ・ゲリラがイスラエル選手11人を人質にとって政治犯の釈放を求める。世界中のマスコミが報道するなか、ドイツ警察の対応の不手際もあり人質の全員が殺される。イスラエル特殊工作員を組織しパレスティナの要人11人の暗殺を命じる。工作員のリーダー、エヴナー(エリック・バナ)が主人公。
 スピルバーグならではのマニアックでリアルな描写が長い映画を飽きさせず、緊張感を持ったものにしている。例えば、テロ現場を背にカメラに向かったレポーターが喋っているシーン。レポーターの背後遠くで大きな爆発が起きる、少しの時間を置いてドン!という爆発音が届き驚いたレポーターが振り返る。例えば頬を貫通した弾丸が肩にめり込んだイスラエル選手、その場では頬に黒い点があり放心している状態であるが、数秒後のカットでは口から下が血だらけになって意識朦朧としている。「プライベート・ライアン」でとことんリアルな人体破壊の映像にこだわったスピルバーグが、この映画でも悪趣味なほどにそうしたシーンを羅列する。
 しかし、この作品が含むメッセージは鋭く、率直だ。「これは戦争だ」と報復を正当化する主人公たちは、一体自分たちのやっていることは彼らのテロとどこが違うのか、という根本矛盾にぶつかっていく。「テロは犯罪として対処すべきだったのではないか?」というニューヨークでのやりとり。背景にそびえる二本のWTCビル。「シンドラーのリスト」を撮ったユダヤ人監督は、今作でイスラエルパレスティナ問題を客観的に描くだけでなく、ブッシュ政権の対外政策への痛烈な批判を行った。



 まったくハリウッドというのはすごい。すごさを増している。いよいよ「シリアナ」も公開される。おいらたちはスクリーンを通して世界を知ることが出来る。

生誕30周年記念日

誰の?おいらの。とうとう三十路っす。特に感慨深いこともなく、なるべくして、30才。なんつーの?30代男の色気というか、貫禄というか、脂ののり具合というか、そういうものが欲しいやね。まあ、ちと無理やね。いまんとこね。ぼちぼち行くけどね。ということで、読んだ人はおめでとうコメント忘れずに。プレゼントはもちろん受付中。

9月が過ぎたら起こして

先日行われた第48回グラミー賞で、グリーンデイが最優秀レコード賞を獲得した。賞を獲得した楽曲「ブールヴァード・オブ・ブロークン・ドリームス」は2004年に発売されたアルバム、「アメリカン・イディオット」に収録されている。このアルバムは昨年の第47回グラミー賞を総なめにした祈念碑的作品だ。未聴の方は今からでも是非聴いて欲しい。このアルバムに収められている「ウェイクミーアップ・ホウェン・セプテンバーエンズ」も含めてビデオクリップが下記のサイトから観ることができる。このサイトにはメンバーへのインタビューも掲載されていて、このアルバムが彼らにとってどういった位置付けを持つ作品なのかが伝わってくる。

http://www.wmg.jp/greenday/
http://www.wmg.jp/greenday/index02.html


グリーンデイといえば、オアシスとほぼ同時期に出てきたバンドだが、おいらにはやがて消える一発屋のパンクバンドとの印象が強かった。「メロコア」などともてはやされたりもしたが、友人が「あんなもんコアでもなんでもねえ」と吐き捨てていた事が印象に残っている。今ではツアーを行えばスタジアムを満杯にするワールドクラスのアメリカを代表するバンドにまで成長した。当時、彼らが10年後にこれだけの成長と成功を収める事を予想した人はいないだろう。

「ウェイクミーアップ・ホウェン・セプテンバーエンズ」のPVは二人の男女が草原の中で抱き合い、愛を語らうシーンから始まる。なかなか演奏は始まらず二人のやりとりが続く。彼は、人生とは短く一瞬で夢や希望が変わってしまうかもしれず、今を永遠にしたいと彼女に訴える。彼女は優しい笑顔で彼にささやく。「何があっても私たちは一緒。誰にも変えられない。ずっと一緒よ。離れない」。ゆっくりと演奏が流れ出す。美しいアコギのアルペジオにのせてビリーのヴォーカルが歌い始める。若い二人がお互いを敬い、慈しみ、生きる喜びに溢れる生活が描かれていく。二人の時間の積み重ねとともに曲も高揚してくるが突然演奏が途切れる。テラスにいる彼のもとへ、部屋から飛び出してきた彼女が叫ぶ。「違うと言って!なぜ相談もせずそんなことをするの!?どうしてよ?」と。あれほど幸せそうだった二人に何が起こったのか。彼女は泣き崩れる。「ああ神様、どうしよう。どうしたらいいの」。彼は「君だけには理解して欲しかった。僕たちのためなんだ。誇りに思って欲しかった」と叫ぶ。彼は彼女に言い出せないままにイラク派兵に志願したのだ。また演奏が始まる。バリカンで色とりどりの髪の毛を刈られていく青年達。耳元で上官に罵声を浴びせられる。やがて場面は戦闘只中のイラクへ。破壊されつくした町の中で、子どもたちに銃を向ける米兵。閃光が走り、爆風にもまれ若い兵士達が次々と倒れていく。その中で恐怖と狂気に縁取られた彼の瞳が映される。

夏は来て そして過ぎ去る
イノセントが永遠でないように
9月が終わったら 俺を起こして
俺の親父に去る日が来たように
あれから7年あっという間に過ぎた
9月が終わったら 俺を起こして


ほらまた雨が降ってきた
星からこぼれ落ちてきた
俺の痛みはびしょぬれで
そしてようやく自分になれる
思い出が眠る間
でもそこで何を失ったのか 忘れることは絶対にないから

このPVの監督はサミュエル・ベイヤー。ニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーンズ・スピリット」などを撮った人で、「アメリカン・イディオット」からシングルカットされたPVすべてを監督し、MTVビデオ・ミュージック・アワードで8部門中、7部門を受賞した。おいらはまだ未見だがグリーンデイのライブDVDも監督している。


出演している2人の演技も秀逸で男優は「リトル・ダンサー」のジェイミー・ベル。あのあどけなかった少年が、逞しくも脆い青年を見事に演じている。まるで一本の映画を観ている様だ。この曲はビリーが亡き父のために唄った歌であるが、ここで唄われる“9月”は我々に911を想起させる。アメリカに暮らす人々は、どうやって9月を終わらせるのか、その事に向きあわざるをえない。彼らの家族が、恋人が、イラクの市民を殺し、自らの命と尊厳を失い続けているからだ。「アメリカン・イディオット」の一曲目はアルバムタイトルにもなった楽曲で、このアルバムを象徴している。

アメリカのアホにはなりたくない
新種の狂気に支配された国なんて欲しくない
あのヒステリックな音が聞こえるか?
アメリカを犯したあの下心

911以降のアフガン〜イラクを通じて、反ブッシュの活動を開始したミュージシャンは数多くいたが、作品の完成度や圧倒的多くのティーンエイジャーへの影響力という意味では、グリーンデイこそが最功労者だと思う。このアルバムは全曲を通じてアメリカに生まれた一人の青年の物語になる様なつくりになっていて、メッセージ性も強い。病んだ国に生まれた一人の青年の生きる闘いを克明に描いている。暗く、虚像に溢れ、絶望的な世界の中で必死に生きる若者の叫びを、飾り立てもせず、楽観もせず、ただただリアルに爆音にのせて唄う。グリーンデイは、現在のアメリカを象徴する希望のひとつだ。マイケル・ムーアショーン・ペンパティ・スミスブルース・スプリングスティーンらの行動はブッシュ陣営を確実に追いつめている。帝国の崩壊は既に始まっている。

 おいらもスタンダップ

何日か前に映画「スタンドアップ」を観た。現在、ハリウッドで最も演技力を評価されているであろう女優の一人、シャーリーズ・セロンが主演している。実に美しい。


監督が意図したかどうかは別として、この映画は新自由主義経済が進行するもとでの“働くものたち(労働者)”の在り方を鋭く問いかける作品となっている。原作がノンフィクションという事で、これが本当に十数年前に米国で実際にあったことかと驚く方も多いかもしれない。それくらいに衝撃的内容でもある。ぜひ多くの方に観てもらい何かを感じてほしい。以降はネタバレを含むので、これから観る人はそのつもりで。


おいらがこれまで観てきた労働者のたたかいを描いた映画は、不当な事に屈しない労働者は常に仲間と支え合うことで闘いを前進させてきた。すなわち、労働者の連帯や団結は前提合意事項としてそこにはあった。多くの場合、それはイギリスやフランスの映画ではあったが。


しかし、この映画では不当なことに屈しない生き方を選ぶ主人公が、とことん孤立していく過程が緻密に描かれている。原作はセクハラの集団訴訟を起こした炭坑で働く女性たちを描いたノンフィクションらしいのだが、この映画では「集団訴訟」の現場は描かれない。いかにして孤立した闘いが続いたのかを描き、集団訴訟という連帯への道がいかに険しかったのかを描き、連帯が勝ちとられた瞬間にこの映画は幕を下ろす。しかし連帯の先は描かれずとも勝利が待っていることは充分に伝わってくるのである。今、描かれ、探求されるべきはテーマは“なぜ不当なことに対して「不当だ」と声をあげる人間が孤立してしまうのか”“どうしたら連帯は勝ち取れるのか”という事であることを、この映画は示している。


炭坑という男ばかりの職場にとまどいながらも飛び込んでいく女性達。彼女たちはユーモアと逞しさ、何よりも女同士の連帯で結びつくことで、日々を乗り越えていく。主人公は自分の稼ぎで家賃を払い、子ども達をレストランで食事させることが出来た時、涙をこぼす。彼女は炭坑という職場を得たことで、一人で立って生きることの充足を得る。しかし、セクハラを告発しようと呼びかける主人公だけが、彼女たちとの連帯を失っていく。あまりに切ない。なぜ、「正直でまっとうな彼女が孤立しなければならないのだ!なぜ彼女がここまで苦しまなければならないのだ」思わず観ていて怒りで涙が出そうになる。


成果主義賃金の導入や派遣など非正規雇用の拡大、アメリカ型雇用システムを次々に導入する日本の労働現場では、すでに多くの働く者たちが、孤独と自己責任のもとでひとりぼっちになっている。社会的うねりとなる様な反撃が起きなければ、ますます労働条件や、労働環境は悪化するだろう。ひっきりなしに対立と分断が持ち込まれ、いつ自分がスケープゴートにされるかと怯える暮らしが始まる。


「弱きものが、強気ものに痛めつけられている時、それを見ているあなたはどうするべきだ?たった一人でも立ち上がる(スタンドアップ)べきじゃないのか?」映画のクライマクスで彼女の弁護人が法廷で発する言葉である。


当ったり前のことだが、最初の一人が立ち上がらなければ、みんなが立ち上がることはない。しかしそこには大きな勇気と不屈な意志が必要だ。てことで、エブリバディ、スタンダップ