伊坂幸太郎の描く、日本社会の危機と憲法と言葉。

発表する作品ごとにおいらの心を掴んで離さない伊坂幸太郎氏の新刊。意外にも政治的、かつ非常にメッセージ性のある作品になっている。  

魔王

魔王

圧倒的なカリスマ性を誇る政治家・犬飼が、真の政治改革と憲法改定を掲げて登場する。それに呼応する国民に漠然としや不安(ファシズムの到来)を感じる主人公。しかし彼はある日「自分の意のままに、他人を喋らせる事が出来る能力」が自分に備わっている事に気づく。やがて、国民投票の日は訪れ…

伊坂氏は、憲法・言葉・ファシズム、現在の日本が直面する大切な問題を、とてつもなく身近で意味のあるものとして、描ききる。その力量に敬服。

伊坂氏は“政治的なメッセージと受け止められることは怖い”と言いながらも、この作品は現代社会に生まれてきている“ある潮流”に警鐘を鳴らす作品となっている。憲法論議では理論的な論証では護憲派もおおいに活躍しているが、この小説の様なアプローチこそが、それこそ「別に古い憲法なんて変えていんじゃねーの」という層へ強烈な威力を発揮する。護憲派の同志よ、この本を普及させるべし。

http://shop.kodansha.jp/bc/magazines/hon/0511/index04.html

そしてさらに、「憲法改正を取り上げる」ことも最初から決めていました。知識や情報からそう思ったのではありませんが、単なる予感として、「近い将来、憲法改正国民投票は必ず行われる」と僕は思っていたため、「その時になって、小説で描くよりも、今から先に描いているべきではないか」と考えずにはいられなかったからです(どんな物でも先にやった者勝ちではないか、という色気もあったのかもしれません)。
 結局、「魔王」も「呼吸」も政治に関係するお話になりました。
 社会や政治に関心を持たず、距離を置き、自分の周辺だけが愉快であればそれでいい、という人々や、そういった感覚の小説に違和感を覚える僕としては(僕自身の作風が、そうだと認識されているのは覚悟した上で)、政治に接続したお話を書いたことは納得できる作業でした。
 ただ、にもかかわらず、これが政治に関するメッセージだ、と受け止められることには恐怖があって、頭を悩ませ、何度も何度も立ち止まり、書き上げた部分を消してやり直す。そんなやり方で、この本を書き上げました。
 僕が昔から好きなパンクロックは、政治や社会に対する不満を歌っていますが、その歌詞はたいがい陳腐で、僕の考えとは一致しないものも多かった気がします。ただ、聴いているとどきどきしてくる楽しさがあったのは確かで、僕のこの作品もそんな風に届けばいいな、と今は願っています。
(いさか・こうたろう 作家)

ちなみに伊坂幸太郎の小説を読んだことがないという方は、この作品とともに「重力ピエロ」や「アヒルと鴨のコインロッカー」を読まれたし。生きることの喜びを伝える事が出来る貴重な作家です。